自転車

まだ明けきらぬ頃

耳を澄ませてその気配を待つ

かすかなブレーキの音を合図にこっそりと家を抜け出す

あと数時間待てばよいのに

それがもどかしくて昨日の夕方に約束したことを決行

週に何度も会っている顔なのにちょっとだけ照れくさくて

そして何より知り合いに合わないように家の近くを離れる

自転車を押した彼とただ黙って道を歩く

通りを二本ばかり過ごしてこらえきれずにふたりで笑う

ようやく緊張もほどけて

なにこれ?

座布団

そこそこ長い距離走るからさ

荷台の乗り心地が良くなるように

それはそれはありがとう

と、おもむろにまたがってさあ出発

何のことはない行先は彼の下宿屋でしかないのだけれど

バスの始発を乗り継いで会いにいくのももどかしく

それをただ待っているのも耐えられず

まだはんぶん暗い中を自転車漕いで来てくれたことを思えば

がたごとと揺れる荷台も気にならず

必死にペダルを漕ぐその動きの伝わる背中におでこをぴったりとつけ

風の匂いと彼の匂いを味わってた

橋を渡る時にぴゅーぴゅー言ってた川からの風の音

すこしだけ思い出したような気がした