空
仕事帰り
駐車場から家までの
ほんの数十メートルの道
空を見上げる
そのひととき
わたしはただのわたしになる
なにものでもない空っぽのわたし
さっきまでの仕事をしていたわたしでもなく
これからたどり着いて家事をするわたしでもなく
ただ空をながめているわたし
わたしの中の空にそのときどきに
きままな風や想いが流れ込む
過去や未来やもっと遠くの何かや
自分でもわからないなにものか
それがわたしを涙ぐませたり
ほほえませたりする
今年の初もうでは
思いがけない場所で思いがけない人と詣でることになった
見上げると木々の間に月が輝いていて
写真を撮りたくて携帯のカメラを出したけど
なにも写らなかったのでやめにした
残せるものなどたかが知れている
書ききれることはそうそうない
そんなこと分かっているからこそ
心だけで小さく記憶する
忘れてもいいことを少しだけ想いに残す
心細かったときにそばにいてくれたひとに
ありがとうを言う代わりにそっと乾杯
月の傍に小さな星がいることに安心して
さあ、帰ってゆっくり眠るとしましょう
おやすみなさい