友情の距離

ずっと昔

気に入って通っていた店がある

誰が評したか「飲んで歌って踊れる店」

今はもうないのだけれど

その店の流れを汲む店やひととは今も続いている

そんなある場所で

大して話したこともないのだけれど

その店で知り合って30年近くなるひとと遭遇

お互いの仲間も交えてとても楽しい時を過ごした

こちらは女二人

あちらは食のイベントの3次会

生産者やシェフの男ばかり10数人のグループ

生バンドで歌う彼らの味わいのあること

それぞれが歌うときのみんなの温かいこと

充実したイベントを成功させたあとの3次会と分かる心地よさ

 

そんな中、件の彼がこちらに向かって手を差し出す

誘われてスローな曲で踊る

ダンスというほどのものでもないけれど

チークダンスではない半分くらいはきちんとしたホールドで

このひととこんなふうに踊ったことなどあったかしら?

と、記憶を探っても一つも出てこない

初めてのお誘いとダンスに軽くドキドキして

照れ隠しに流れる曲に合わせて歌ったりもするけれど

それよりも彼のホールドの揺れるリズムに合わせたほうが

もっとこの時間を楽しめるような気もして

すこしだけ頬を肩に近づけてしばしリードを受ける

決してそこに身をあずけることはないのだけれど・・

特に何を話すでも見つめ合ったりするわけでもなく

一曲を共に過ごして離れる

でもどちらともなく離れる前にハグした

 

 

なんだかね

あの店がなくなっても

あの店の仲間・・って気分はあるんだ

そのゆかりの人たちにもいろんなことがあって

淋しかったり悲しかったり言えない想いを抱えてたりもする

言わないけれど同じこと知ってて抱えてるかも

ふとそんなことを思った

 

ダンスとハグと

きっとあれは友情の距離

同じ時の欠片を同じ空間で過ごした仲間との

意識もしていなかった者同士のそれでもひとつの関係

繰り出された細い細い糸がちいさな形をつくるほどの

時を経た今初めて感じるもの