声
ひとは
声を忘れて
顔を忘れて
思い出を忘れる
と、書いてあったのはどこだったかな?
なにごともなかったように
こころが澄んでいるような気がしても
それは綺麗に奥底に沈んでいるだけかもしれない
ダンスの個人レッスンで
講習を受けて帰ってきたセンセイが
パワーアップして教えてくれた
あ、これって単に教える声でなく
喋りたいことを喋ってるときのオトコノコの声だ
なんて思えてちょっと心の中でこっそり笑った
遠い記憶に残る声は
色鮮やかな花がそのままに咲いているよう
そのままに思い出せるのだけれど
だんだんと重みも中身も薄くなって
ある日ほろほろと崩れ消えていきそうな危うさを思わせる
あの頃には
ずっしりとしっとりとした果実のように
鼓膜と胸を震わせていたのに
それでも
まだ大丈夫
母が呼ぶ声も
あの頃のあの場所に響く声も
耳たぶに絡みついた声も
記憶の中に眠ってくれている