思い出は消えない

最後の練習の日です

集まりませんか?

見知らぬ後輩からそんな知らせが届いたのは

二週間ばかり前のこと

学生時代に所属していたサークル

その頃に練習で訪れていた場所

そこがもう使えなくなるので最後に・・という知らせ

数か所あった練習場もひとつひとつ様変わりしていった

新築のため壊されてしまったり

移転のため無くなってしまったり

同じ場所に行ってももう昔いた場所は影も形もなくなっていく

大学を出たすぐは練習や試合や飲み会にまで

OBとして顔を出していたがそれも昔のこと

試合は観に行っても練習はもう長いこと見たこともない

練習場にだって行ったことがない

それでもふとこころ動かされたのは

なんだか「最後を見届けたい」気分になったから

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大学本体の方はもう着々と移転が進み

立ち並ぶ校舎も着々と廃屋の趣へと変わっている

敷地内の管理もほどほどで植栽その他も荒れ模様

そんななかに取り残された建物

思わず前を通り過ぎてしまいそうになったのは

記憶の中の建物となんだか雰囲気が違ったせいか

好き放題に成長した玄関前の草木のせいか

 

それでもドアをひとたびくぐれば思い出が溢れだす

入ったばかりの一年生練習があった部屋

更衣室もない建物でそこで着替えてたトイレ

下級生練習が終わった後の暗くなった中

とても眩しく見えた上級生練習を覗いてたこと

病気でダンスをできなくなった子が着てたコートの裾

階段をのぼる足取りが重かったり軽かったりしたこと

その場面に登場するひとは一緒ではなかったけれど

それが誰だったかもうひとつひとつはどうでもいいのだけれど

ぼんやりと浮かんでは流れていく記憶が

時折雨の降る曇りの午後、日が暮れて灯りの灯るころまで

自分の中を駆け巡っていた

懐かしい?

そう、楽しいのか悲しいのかそんなことは薄れてしまって

ただそのすべてがそこにあったことだけが懐かしく思える

不思議な感覚の懐かしさだった

 

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建物に近づく前から響いていた声は

サークルの後輩にあたる、練習をしていた現役の学生たちの声だった

一時減り続け存続も危ぶまれた時期もあったがそれも乗り越え

若手OBも交えて数十人が集まり最後の日の記念のちょっとしたアトラクション

現役・OB交えてのダンシングをかわるがわるやっていたところだった

(途中で気の利いた役付き4年生が誘ってくれてルンバ1曲参加)

そのダンシングもそのあとの練習もずっと音楽と人々の声に溢れてた

たくさんのひととそのエネルギーと想いと

今日が最後という特別な感情も加わってなのかいつもなのか

それはわたしには分からないけれどとにかく熱くぎっちりと

その場を満たすなにかが感じられて圧倒されるようだった

 

大丈夫

この場所がなくなったってこの子達はなにも変わらない

感傷に浸っているのは歳をとったこちらだけ

そして私だって悲しむ必要はないんだ

見届けたかったのは終わりではない

たしかに受け継がれるこの想いなのだろう

 

終わりはいくつもやってくるけれど

それはひとつの区切りに過ぎない

会えなくなったひとだって私の中で消えるわけではないし

行けなくなった場所だってその存在がなくなるわけではない

思い出は消えない

そこで過ごした出来事を忘れたとしても

そこで過ごしたということはずっと私の中にある

かたちがなくなってもきっとあり続ける

 

 

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